役者ならば誰でも台詞を入れるのに苦労しているはず。僕は大抵、台詞を「入れる」と言う。「覚える/憶える」というと試験勉強の丸暗記を想像してしまうのでなるべく使わないようにしている。けれども、多くの方には「覚える」と言った方がピンとくるだろうから、ここでは「覚える」を使うことにする。
さて、その覚え方だが、長い台詞は一人でもわりと覚えやすい。けれども、複数の人物が絡み合っているシーンはなかなか覚えられない。不規則に並んだ台詞の順番や、自分の台詞のきっかけはどれだったろうかとか、暗記とは違う頭を使うのである。立ち稽古を繰り返すのが一番いいのだが、貴重な稽古時間を台詞を覚えるための時間にするのは勿体無い。なんとか家で覚えなければならない。
そこで登場するのが空き缶だ。それぞれの役を空き缶に割り当てるのである。空き缶を手に取って動かしながら、次は誰々のこの台詞その次はこれと、シーンを疑似体験する。当然、視線は台本から離す。思考を台本から離して外に持って行くことが大事だと思う。文字を覚えるのではなく「体験」する。身体に「入れる」のだ。
これは僕がやっている一つの手段だ。人それぞれ自分に合ったやり方を見つけてやっているのだろう。やり方はどうでもいい。台詞を覚えるのが得意か苦手かなんてこともどうでもいい。とにかく覚えなければいけないのだ。「おれ、台詞覚えるの苦手だから」と言ったところで演出も観客も許してくれない。
これから歳を取って記憶力がどんどん鈍くなるので、効果的な台詞の覚え方を身につけないといけない。